【ネタバレ注意】「聲の形」を見に行ってきたよ!
京都アニメーション、山田尚子監督の最新作「聲の形」を見に行ってきました。
原作は読まずに劇場に向かいました。
映画を見て、その後、原作を全て読んでの感想になります。
一言で言うと、すごくいい映画なので、たくさんの人に見て頂きたいです。
同時期に公開されている数々の素晴らしい作品と比べても、むしろ、あるベクトルでは抜きん出て今年一番の映画だと思います。
【ネタバレ注意】
続きに、映画「聲の形」を見た感想を書いています。公開直後ということもあり、まだ見ていない方にとってはネタバレになってしまうかも知れませんので注意してください。ネタバレが気になる方、「聲の形」の内容を知りたくないという方など、絶対に続きを見ないでくださいね。
聲の形
聲の形公式ホームページ
http://koenokatachi-movie.com/
聲の形公式Twitter
https://twitter.com/koenokatachi_m
愛が素晴らしいのは、愛以外もそれに含まれているからだ、と、昔、誰かがおっしゃっているのを聞いたことがあります。
この物語はやっぱり、恋愛ではなく愛そのもの、だったのだと思います。
主人公は、普通の青年。
その青年が人々との出会いを通して、また、この世界に、産み落とされるまでの過程が描かれています。
人は、生まれ変わるのではなく、すべてを連れてまた、新しい世界に、産み落とされるのかも知れません。
だから、忘れられないことばかりなのでしょう。
映画に出てくる人の「持っているもの」と「持っていないもの」が総じて一つの個性として描かれており、聴覚障害者や不登校者、友達たちとの関係、いじめやそれに準ずる親たちの葛藤など、異文化交流や、コミニュケーション、共同体といったものは一体なんなのかといった、「繋がり」や「意思疎通」がテーマに重きを置いて作られているように自分には思えました。
ここで泣きなさい、といったシーンは見られず、終始物語は淡々と進んで行き、まだまだ志半ばかなという所で、エンディングを迎えました。
映画を見ている間中、胸の奥に閉まってずっと開けてこなかった感情、その根源となっているであろう人間の本質を覗き見られてしまったようでした。
最終的に、人は優しい生き物なのか。
友達って、なんなんだ。
人間は、どうして、生きるのか。
変わることの恐ろしさと変われないことの恐ろしさを、主人公の石田将也の気持ちと、それを表現する緻密で丁寧な演出の積み重ねから察するに、十分すぎる物語の完成度だと感じました。
すべての人に同じように権利があるので、譲り合いの精神を持てたらと劇中何度も思いました。それは、耳が聞こえる聞こえない、話せる話せない、登校者と不登校者、母親と父親、日本人と外国人などでも変わらないんだと思います。
譲ってばかりも駄目だし、権利ばかり主張するのも駄目なんだと思います。
難しいところは、一つ一つ引き算で、しかし守るべきところはちゃんと守り、長い時間をかけて丁寧に譲り合って、助け合って、繋がり合っていけたらとも思います。
僕もうまく話せなかったことは沢山あるし、今でも誰にも話していないことが沢山あります。言葉にできないことも沢山あります。後悔も沢山しています。
「生きる手助けをしてほしい」と石田将也は言いましたが、誰かを肯定するということ、つまり、あなたが生きてこそ僕も生きるのだから、その上で一緒に考えよう、と誰かに言ってもらうことほど素晴らしいものない、と、そんな風にも感じていました。
石田将也も西宮硝子も誰かを肯定することを、あんなにうまくやれるなんて、少し羨ましかったりもしました。
だから物語中たった一つだけ、自分の人生とは違うことがあるとすれば、それは、僕はそんなに強くないということです。
僕はいまだ、自分を変えることはできていませんし、変わらないほどに強い意思もありません。あんなにうまく謝ることもできませんし、周りとの繋がりに未だ四苦八苦する毎日です。
物語のすべてがうまく行きすぎている風に見える方もいるかもしれませんが、それでも、彼ら彼女らがその時どういう気持ちなのかを察しようとすること自体が、今の僕に課せられた使命なのだと思いました。
幸いに、その演出が凄く手助けになりました。
その論理的で緻密な演出と、時に理屈を持たない感覚のみの演出の対比から、答えを導き出さなければなりません。
雲がない空を見て、石田将也の気持ちを明確に知ることはできないかも知れませんが、彼が複雑な思いを感じており、空には雲が一つもないという対比を、光と影という言葉で表すしか、今の僕には出来ません。
それがそのまま、西宮硝子が持つ複雑さ、例えば、死にたい気持ちと、それでも友達になりたかったり、でも、感情でぶつかって喧嘩をする風景の素直さなどの対比が、いくつもいくつも、登場人物の感情を読み取るに助けてくれました。
言葉と、手話と、音と、携帯のメールと、手と、様々なものを使って届くものと、風景や景色、雰囲気や感情、表情や想いからしか届かないものとの対比が、僕を助けてくれました。
耳が聞こえなくて、うまくしゃべれないのは、西宮硝子ではなく、石田将也のほうだったのでしょう。
石田将也が見せる顔や聲の形に一喜一憂しましたが、それはすべての登場人物が見せるべきものでもあったのだと思います。
そういった想いもあり、映画を見たあとに原作を読んだんですが、原作との違いが結構あってビックリしました。
映画を見た方は、絶対に、原作を読んだ方がいいと思います。
劇中、各登場人物のサブストーリーが少なくなるのは仕方がないと思いますが、僕自身は、非常に丁寧にまとめられている印象を感じました。The Whoのマイジェネレーションも好きだったし、それだけで、聲の形のテーマを表現してると思いました。
原作の皆の気持ちを、映画が補完しようとしている所もあったと感じました。
西宮結弦の気持ちや植野直花の気持ちは、特にそうだと思う。永束友宏、佐原みよこ、川井みき、真柴智、それぞれの気持ちを代弁している所も確かにあった。演出のすべてが分かる訳ではないけど、人間は色や形や、ノイズや空間に配置された何かで、その感じ方に違いが出てくるのだとも思う。
それでも、西宮硝子の母親の想いだとか、石田将也の母親の想いだとか、西宮硝子を探すシーンとか、石田将也の小心者の感じだとか、本気だということを誰かが悟る場面とか、植野直花の独特な気持ちだとか、永束友宏の友達達や、佐原みよこと植野直花の関係、川井みきの本心、真柴智の歪んだ想い、おばあちゃんのこと、手紙や東京、石田将也の夢、数年後の物語など。
もちろん2時間では難しく、ただ、そういうのがもっと映画にもあれば、もっとこの物語のテーマが沢山の人に伝わったんじゃないか、とは考えてしまいます。
相手がアクションして、その相手がアクションして、っていう繋がりも、もっと欲しかったと思うところもある。
一言で言うと、もっと『聲の形』を、『聲』だけではなく『形』そのものを見せて欲しかった、と思った所もありました。
それでも僕は、この物語を2時間の映画にするにあたって、関係者がどんなにか原作を愛し、なんとかその想いを表現しようと、真摯に正直に真正面から取り組んでこられたのだと、映画を見て感じてもいました。
実は、「真摯」ということこそが、この作品の一環したテーマなんじゃないかなと思います。
このまま、真摯な気持ちを持ち続けたまま、『聲の形』の原作を完全になぞる連続アニメにも挑戦すればいいと、そんな事を勝手に思ったりもしました。
僕は、この映画が好きです。
単純に映画として面白かったということもあるし、登場人物の想いを表現しようとした演出も大好きです。この物語から逃げずに、真正面からぶつかり映画を作り上げ完成させた人たちを尊敬しますし、同時に、真摯な想いも受け取りました。
劇場に足を運び、この映画に出会ってよかったと思います。
そこで出会った登場人物、西宮硝子を始め、登場人物全員、純粋でいい子では無かった。
でもそれでもいい。それ自身、後から気がつく人物もいるのだが、それが正解かどうかも分からない。
そして、僕も、何も変わらない。
すべての登場人物が、自分自身を見ているようで、形どころか、聲も出なかった。
この物語は、生き続けようとするときに軋み、えずいた聲の形を、彩った物語なのだと思います。
救いはあるだろうか。
土下座をする母親は、死のうとした少女は、少女を殴り続けた少女は、死骸の写真を撮り続けた少女は、誰かに救いを求めただろうか。
もう、一人では、生きていけなかったんじゃないだろうか。
だからこそ、人は、誰かに会いに行くべきなんだと思いました。
誰かに会いたいという気持ちだけが、時に、絶望を超えるのだと思います。
この世界には理屈じゃ到底乗り越えられないようなことがたくさんあって、それでも、誰かと繋がりたいってそんな絶望的なことを毎日のように願っている。
他人とは、絶対に分かり合えない。
なぜなら、人はそれぞれ違う生き物だから。
それでも、誰かに会って、何かを感じるとろうと挑戦することでしか、人間は希望を感じることができないのかも知れません。
それが例え、ごっこ、だとしてもです。
それでも、許されるなんてことは絶対にない。
そして、僕は何一つ、この先の答えを持ち合わせていません。
今は、逃げないことでしか何かをつかむ術はないのだ、と、そう感じています。
ただ、映画であったかどうかはっきりと確認できませんでしたが、健常者同士が手話で会話するシーンがあります。
それは、ある種の希望だと思いました。
演者の皆さんも逃げずに想像力を働かせて、声の無かったキャラクターに声をつけることそのものが、聲の形のテーマにもなりえて、なんとかキャラクターの聲の形を表現しようとされてて、それはもう、すべてが素晴らしかったです。
一番はキャラ立ちもあって、西宮結弦。
結弦を演じておられる悠木碧さんは、「君の名は。」でも、少し前になりますが「魔法少女まどか☆マギカ」でも、非常に重要な役どころだったのですが、同じ方が演じられてるとは全く思えないほどの、凄さです。結弦はまじで、それしかないという感じでした。原作を読んでいても声が勝手に再生されますし、それはずっと以前からそうだったかのようにも思えます。
植野直花も素敵だった。
声は金子有希さんだったのですが、自分自身「たまこラブストーリー」のみどりちゃんの事もあってか、劇中、あっと思いましたがその後は全然思い出すこともなく物語に入り込めましたし、ちゃんと植野直花だったし、聲の形自体が植野直花の物語だったのだ、ということを納得させるほどの説得力がありました。
西宮硝子のようなキャラクターの強さは、生きることそのものにダイレクトに伝わって、人そのものを生かすと思います。西宮硝子役の早見沙織さんは手話モデルの方と交流会をされいろんな話を聞いたり、と、その表現方法に研ぎ澄まされたものを感じました。
石田将也の松岡茉優さんから、入野自由さんへの繋がりは奇跡だと思う。
他にもここに書けないほど沢山の演者さんのお芝居に心を奪われました。ほんと、演者の皆さんの声がもっと聞きたかったです。
丁寧で繊細なお芝居に終始、感銘を受け続けていました。
人の心が繊細すぎるがために、この物語も繊細で、だからこそ、僕はこの作品を守りたいとさえ思ってしまっています。
本当に繊細な作品だと思います。
できることもできないこともあったんだと思います。
もし、自分にとってそれが完璧にできていなかったからといって、その何から何まで全部ダメだとは僕は全く思いません。誰であろうが、何もかもを全部完璧に誰もが納得する形で最高にうまくやることなんてできません。
今後このような作品が作られる土壌があり様々な多様性があること、同じく、人間が持つ不器用さを許容できる土壌がある事こそが、人間の根源に関わることだと僕は考えています。
そして、その多様性がグツグツ煮える所からしか、エンターテイメントは産み落とされないのだと、思っています。
永束くんの言葉で好きな言葉があります。
「彼女に何が出来るかは、彼女が決める。」
いじめられた人がいじめた人を許すかどうかは、その人に任せればいい。許してもいいし、一生許さなくてもいい。会ってもいいし、一生会わなくてもいい。
そして、その後に恋をしたり、愛を感じたりするのも、その人たちの自由です。誰もが恋をする権利も愛する権利もあります。恋してもいいし恋しなくてもいい、愛してもいいし愛さなくてもいい。他人がとやかく言うことではありません。この世界に絶対はありません。
それが愛なんじゃないでしょうか。その自由こそが多様性を生み、愛そのものになっているのだと僕は考えています。
この物語ではそうなっただけであって、当然、そうならない場合も多々あると思います。不器用な人間のすべてが、恋をしたり愛を感じるわけではないのと同じように。
愛は、絶対ではないと僕は感じています。
できることと、できないこと。
聞こえることと、聞こえないこと。
登校できることと、不登校なこと。
髪を切ることと、切らないこと。
雲がある景色と、ない景色。
なっている音と、なっていない音。
形のある聲と、形のない聲。
泣いている顔と、泣いていない顔。
傷ついたことと、傷つかなかったこと。
心にあることと、心にないこと。
許すこと、許せないこと。
話せることと、話せないこと。
両親がいることと、いないこと。
友達と、友達じゃない人。
好きな人と、好きじゃない人。
愛が素晴らしいのは、愛以外もそれに含まれているからだ、と、昔、誰かがおっしゃっているのを聞いたことがあります。
いや、もしかしたら、昔、自分にも同じようなことがあった時に、自分が勝手にそう感じて、勝手に作った言葉だったかも知れません。
この物語はやっぱり、恋愛ではなく愛そのもの、だったのだと思います。
原作者の大今良時先生、山田尚子監督をはじめ、関係者のみなさま、素晴らしい映画をありがとうございました。
自分でも、おかしくバカみたいですが、すべての登場人物が僕に重なりました。
この、愛おしさをどう言葉にしていいかが分からず、物語同様、それが産み落とされるまでに感じた想いを淡々と綴ることで、「聲の形」の感想とさせて頂きます。
何一つ、この物語に言葉で答えられなかった未熟さを、お許しください。
そして、いつか自分も、誰かのために、そして自分のためにも何かを生み出せれば、と思います。
おさらい
聲の形公式ホームページ
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