細田守監督の最新作「バケモノの子」を観てきました。
簡単ですが、続きに感想を書きました。
ネタバレしています。ネタバレが気になる方は絶対に続きを見ないようにして下さい。
僕は一人では生きられない。
誰かが育てた何かを手にし、誰かが殺した何かを食べ、誰かが作った道の上で、誰かの笑顔を垣間見る。誰かが描いた動きを真似て、誰かが話した言葉を拾い、誰かが見ている現実の中で、自分がこの世界に存在してもいいんだという確証と、その居場所を探して今も必死でもがき続けています。
僕も、九太(きゅうた)のように、今も必死でもがき続けています。
僕たちは鏡ではなく、それそのものなのだと思います。これは、別の世界の出来事ではなく、目の前にいる人は自分を写す鏡なんかじゃない。あなたが見ているのは鏡ではない。どこまで行っても、自分は自分なのだと思います。嘘を言い続けた猪王山(いおうぜん)は一郎彦(いちろうひこ)に自分を見て、一郎彦は猪王山に自分を見ていました。
でも、僕とあなたは違う生き物だ。
僕たちは一人ぼっちなのだ。
一郎彦のように、僕もいつかそれに絶望してしまう日が来るだろう。いや、もう何度も。だから、それが真実なのだと分かる。
どこまで行っても、僕は、僕にしかなれない。
どこまで行っても、あなたは、あなたにしかなれない。
その絶望が、闇が、人間を支配しているというなら、それに身を任せようとする気持ちは僕にも分かる。弱さを肯定することはすごく難しいから、いつだって自分以上の偽りの強さを欲しがって絶望してしまう。そんなものどこにも存在しないのに。
あの剣が、熊徹(くまてつ)を刺す光景は、いつか僕が見る景色に違いない。
僕はその弱さで、いつか誰かを傷つけてしまうのだろう。
いや、そうやって、今まで沢山の人を傷つけてきたんだ。
人間は一人ぼっちだが、一人では生きられない。
弱さを持った悲しき化物、人間。
バケモノの子は、そんな僕の物語でもあった。
救いは、いや、僕に出来ることはなんだろう。
熊徹と九太は明らかに繋がっていた。
熊徹と九太は違う"モノ"だけど、"バケモノ"だ。化物。九太と一郎彦もそう。父親と九太も同じだ。父親の後悔は、絶望に似た何かなんだ。
楓(かえで)は繋がっていないように見えるけど、どこかで、母親とそれからチコと繋がっている。チコが楓の元に向かうのは同じモノだからだ。熊徹は全てを否定し、楓は全てを肯定する。そう、熊徹と楓もちゃんとどこかで繋がっている。楓の存在理由はここにある。
楓の悔しさは、時に正論を吐かせるほどのものだったのだろう。大人になっても、その悔しさを忘れることは出来ないかも知れない。
でも、楓は誰かを救う。いや救いたいと願っている。チコもそう。それは、母親には出来なかった事だから。でも、その変わりじゃない。変わりじゃなく、別の人間として一人の人間としてそうすることで自分の存在を確かめようとしている。九太を肯定し、一郎彦を叱りながら、それでも、その二人と同じように自分自身を認め救いたいのだ。
誰もが、たったひとり唯一無二の存在としてこの世に生を受け、皆、もがき続けているのだ。
「忘れないで。私たちいつだって、たったひとりで戦っている訳じゃないんだよ。」
それは、九太や熊徹、一郎彦や楓自身、そしてそれを観ている僕にも向けられた言葉だった。
今は、その言葉をそのまま真正面から受け入れることは難しい。しかし、それが、それこそが僕にしか出来ないことにも繋がる何か、なのかも知れない。
僕たちは、ひとりぼっちだからこそ、違う生き物だからこそ、出来ることがある。
その先に、何かが待っているというなら、それが希望という得体の知れないモノの正体なのかも知れない。
九太の孤独も、熊徹の寂しさも、一郎彦の絶望も、楓の悔しさも、何もかも全部、僕の物語だ。
そいつら全員連れて行って、これからも一緒に生きる為の物語だ。
何もかもを心に抱え込んで一緒に生きる物語だ。
熊徹も九太も一郎彦も楓も、そして僕も、完璧じゃないただの"モノ"だ。
僕たちは、いや僕たち人間こそが、不完全で、足りないモノだらけの、いびつな形の、バケモノそのものだ。
でも、それでも、生きたい。
駄目かな。
普通に、時に笑って、時に泣いたりしながら、学んで、恋もして、誰かとご飯を食べて、何処かに旅をして。
バケモノの子はそんな僕と、そんなあなたの物語だ。
僕も、あなたとなら強くなれる、のだろうか。
<あとがき>
バケモノの子は、そんな僕のような人間をも熱くしてしまう、全方位型の大エンターテインメント作品でした。
率直に面白かったです。テンポもいいし、誰もが見られるようにエンターテイメント側に舵を振った感じがしました。おまけに、要所要所でホロホロと泣いてしまいましたよ。涙。。感動的。
ただ、一つだけ欲を言えば、43話ぐらいの連続長編で見たかったです!
冒険や修行の一つ一つももっと見たかったし、熊徹と九太の絡みももっと見たかったし、一郎彦たちとの絡みももっと見たかった。人間界もバケモノ界ももっともっと細部まで見たかったです。毒や牙や印象的なシーンももっと見たかった。説明をもっと絵で見せて欲しかった。人間界の楓の悔しさや言葉に出来ない想いなんかも深彫りして欲しかった。バケモノ界で登場人物にももっと世界を旅して欲しかったし、でもそうなると趣旨が変わってきちゃうかもなんですが、渋谷を軸にした世界観も素晴らしくて、だからこそ広い世界も見たいと感じました。
演者さんは、俳優さんと声優さんのハイブリッドという感じでしたが、僕は全員すごく好きでした。全く違和感なく耳に入ってきました。まさにバケモノ同士の個性と個性のぶつかり合いでした。
細田守監督作品は、本当に少年とかおっさんとかの描写が魅力的で、動きもすごくかっこいいんですよね。ヒロインもすごく好きな感じだったんですが、今回も他の登場人物が魅力的すぎて、完全にお株を奪われてしまったようにも感じました。ただ、その声も相まって存在感は抜群です。
自分に子どもや家族がいたら、間違いなく一緒に観に行きたい映画です。なので、九太にはたくさん家族がいて少しうらやましかったです。そもそも子どもを一人で育てるなんてどだい無理な話だから、九太以外の登場人物が全員九太の家族に見える、というのも全然間違いじゃないと思います。
ちなみに自分は一人で行きましたが、もちろん一人でも楽しめます。あと、何回か見に行ってもう少し考えてみたいと思っています。
細田守監督を始め、関係者の皆様、素晴らしい映画をありがとうございました。
皆様も、是非。
●バケモノの子公式サイト http://www.bakemono-no-ko.jp/index.html
●バケモノの子公式Twitter https://twitter.com/bakemono_movie
●細田守監督のTwitter https://twitter.com/hosodamamoru
●スタジオ地図のTwitter https://twitter.com/studio_chizu
●バケモノの子展にも行ってきました!感想はこちら! http://manabeya.com/bakemono-expo/