「かぐや姫の物語」の感想
高畑勲監督のスタジオジブリ作品「かぐや姫の物語」を観に行ってきました。
僕はこの作品が大好きです。
簡単ですが、感想などを書いてみました。
ネタバレしないように書きましたが、気になる方は、続きを読まないでくださいね。
かぐや姫の物語
面白かった。
本当に、面白かったです。
ストーリーは「竹取物語」そのままで、ざっくり言うと「竹から生まれたかぐや姫が月に帰る」お話です。本当にそのままでした。
その竹取物語に高畑監督独自の解釈で肉付けがされているといった感じです。
高畑監督は、日本を舞台にした「ハイジ」をいつかやるべきとおっしゃっていたそうで、まさに、そういえば、そういう風に見えなくもない。かも。
ただ、すごく小さい子供たち向けではないと思います。暗闇で長時間だと退屈するかも知れない。でも、大人になったとき絶対に見てほしい。下は小中高校生ぐらいから、上は限りなくご年配の方まで大丈夫だろうと思います。むしろ沢山の人に見て欲しいと思いました。
原作「竹取物語」では子供時代のかぐや姫がほとんど描かれていないのに比べて、本作「かぐや姫の物語」では非常に丁寧に描かれています。とにかくもう、この赤ちゃんかぐや姫がめちゃくちゃ可愛い。もうね、あか姫でもあかぐやでも何でもいいんですけど、とにかく可愛すぎるんですよ、ほんと。
かぐや姫が成長してからもそうですが、とにかく全編を通して絵も綺麗で、特に人物に写る影がとても印象的でした。同時に音もすごく良くて、映画館の音響に左右されるかもしれませんが、竹の笹がガサガサ言ったりする音などの生活音がすごくよかったです。是非、映画館のデカイ画面とデカイ音で体験して欲しいと思いました。
ただ一点だけあるとすれば、パンフレットを購入された方は、映画を見て家に帰ってから見て欲しいと思いました。僕はいつもそうするのですが「かぐや姫の物語」は特に、先にパンフレットを読まないほうがいいと思います。
パンフレットでネタばれしているので、いや、かぐや姫が地球に来て月に帰る話なので、ネタバレのしようがないのですが、それでも、映画を観たそのモヤモヤした気持ちを家まで持ち帰り、パンフレットをひらいて高畑勲監督の企画案(パンフレットのものは公式サイトのものより長いです)を始め、そこに描かれている沢山の絵などを見てください。
それは答え合わせではなく、まさしく、かぐや姫という一人の女性の物語だったのだ、と強く感じるのではないかと思います。
あと、役者の皆さんの声も全く違和感が無いし、その中でもかぐや姫役の朝倉あきさんがすごく印象的でした。声もそうですが、歌がすごくよくて。本当によかったです。
通常、アニメーションは、絵を先に作り、その動きに声を合わせる「アフレコ」が主流だそうですが、かぐや姫の物語は、先に声だけを収録し、その声を聞きながら後から絵を付けていく「プレスコ」という手法を取ったそうです。声と絵が離れていないのと感じたのも、そういった理由なのかも知れません。
二階堂和美さんが歌う主題歌「いのちの記憶」が流れた頃には、僕は自分でも想いを抑えることが出来ず、どうしようもなくなってしまいました。
「かぐや姫の物語」は、とても切なく、とても美しい映画だと思います。
竹取物語
原作の「竹取物語」や「かぐや姫」について昔絵本を読んだことがある程度だったので、この機会にKindle0円の原作を読んでみました。1時間ぐらいで読めると思います。
このKindle版原作では多分映画で言う「罰」の部分が「因縁」と書かれていますが、かぐや姫は何らかの「罰」の為に地球に下ろされ、その「罪」を償ったので月に帰ったということになろうかと思います。まさに「かぐや姫の物語」のストーリーそのままです。
で、何で「かぐや姫」なの、と。それはまさに、プロデューサーの西村さんも感じたそうで、直接、高畑監督に聞いてみたそうです。
その事は「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」のポッドキャストで公式に聞くことが出来ます。2013年3月27日分開始5分ぐらい~)
下記に要約で書き起こしてみました。
何故、今、かぐや姫なんですか?と聞いたんです。
すると、高畑さんはムッとするんです。そういう時。ムッとすると、一種の狂気と言うんでしょうか、狂った気と書いて狂気を帯びるんですよ。すごいオーラを帯びて怖いんですね。で、こう言ったんですよね。
「あなたは、かぐや姫を知ってるんですか。」
で、僕は、知っていますよ。絵本で見ているし、娘なんかにも読み聞かせています。と。
「じゃあ、私の質問に答えられますか。」
「第一に、かぐや姫は何故、数ある星の中からこの地球を選んだのか、そして何故去らねばならなかったのか、答えられますか。」
「第二に、かぐや姫は原作の中で少なくとも、3年半ほど地球に、日本にいるんですよ。その時彼女は、いったい3年半もの間、何をしていたのか、何を考え、何を想っていたのか、答えられますか。」
「第三に、原作の中で月に帰る前にかぐや姫は自分の言葉でこう言うんです。「私は月の世界で罪を犯して、その罰としてこの地に下ろされたのだ。」あなたは彼女の犯した罪と、そして罰とはいったい何だったのか、答えられますか。」
僕は、全部答えられませんでした。どれ一つとして。
で、高畑さんはこう言いました。
「私の映画は、そのすべての三つの疑問、これに答えようとするのが、私の映画です。」
「そのとき、今、この日本で、作るに価する映画が出来るはずだ。」
「そのとき、あるひとりの女性の姿が浮かび上がるはずだ。」
「かぐや姫の物語」の中に、答えはすべてありました。
いや、それは答えでは無くて、僕自身に向けられた問いなのかも知れません。
かぐや姫
「かぐや姫の物語」は、まさしく、「かぐや姫」という一人の女性の一生の物語です。原作「竹取物語」の流れをくむ、ただ一つの物語だと思います。
原作を愛し研究し、丁寧に心情を補完し肉付けし時には削ぎ落とし、今の現代にかぐや姫が生まれたかのように、蘇らせてくれていると感じます。
原作である「竹取物語」も、そのもっと昔から続く、例えば伝説や習わしなどから来ていて、同じように肉付けや削ぎ落としが行われたのかも知れませんし、その辺りの事は僕には詳しくは分かりませんが、とにかく、その大きな流れの中にこの「かぐや姫の物語」が存在しているのだと感じています。
このかぐや姫の物語をみて、僕は高畑勲監督はすごく前衛的な方なんだなと感じました。近代的でモダンな時代に寄り添ったものではなく、奇抜で尖ってて時に何も寄せ付けない感じです。
誰かに新しいと言われるような少し先のものではなく、もっと大きい舵を取っていく船頭さんのような役割の方なのかも知れません。
それは、芸術や芸事もそうだと思うんですけど、むしろそれだけじゃなくて、日々何かを考えたり生み出したり作ったり、あと、単に生活する事などにとってもとても大切なとても大きいイメージだけど、だからこそ、特に時代を大きく乗り越えるときに必要不可欠なものなんじゃないか、と感じました。
大きな時代の流れの中にあって、尚且つ、生活に根ざした作品だし、例えば、姫や翁やその時代に生きた人々が当時どういうものを食べて、どういう家で暮らして、どういう服を着て、といった動きや物事が、その当時の生活を通して手に取るようだし、古い筆でガサガサに隙間だらけに書いたような絵があるかと思えば、音やBGMが緻密で綺麗だったり、かといって全くただの昔話となっておらず、登場人物や草木も今の時代の人達や景色にも見えるし、しかもそれが全然浮いておらず、かと言えば、女童や帝といったどこかアニメーション的キャラクターのような、ある意味で未来的なものも出てくるかと思えば、月の住人や歌の階調にいたるまで別世界を構築しているものもある。
もちろん僕の理解の範疇を超えており、想像を掻き立てられ、今も全く考えがまとまっていません。
とにかく、やられた、、といった感じです。
と同時に、僕は沢山泣きました。帰り道でも家に帰ってからも沢山泣きました。かぐや姫の事を想ってなのか、自分の境遇や、もしかすると誰かの笑顔を想っての事なのかも知れません。
最後に
日々の衣食住を積み重ね生活に根ざし、色んな絵や歌があって心が振動する、まさに地球で生きているような、本当に素晴らしい映画だと思います。
自分の中でぼんやりしていた「かぐや姫」という一人の女性が、一瞬にして目の前に現れスクリーンの中にいるだけではなく、今の自分にこう問いかけているのだと感じました。
「私は地球に来て、生まれ、走り、食べ、喜び、眠り、笑い、話し、遊び、働き、怒り、愛し、泣き、月に帰ります。」
「あなたは、どうしますか。」
高畑勲監督を始め、関係者の皆様、本当に素晴らしい映画をありがとうございます。
僕は「かぐや姫の物語」が大好きです。
おさらい
●かぐや姫の物語公式サイト
http://kaguyahime-monogatari.jp/
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